医師不足と、過酷な医療の現状

現在医師不足が大きな問題となっています。2006年には「新医師確保総合対策」、2007年には「緊急医師確保対策」が打ち出され、医学部入試の定員を増やしたり、一定条件で奨学金を支給する生徒を設けたりと、国が本腰を入れて医師不足解決に取り組んでいます。

しかし、この問題は簡単に片づけられるほど単純な話ではありません。これには医師の絶対数が不足しているだけではなく、地域偏在や勤務医不足、診療科による需給不均等などの問題もあるのです。

まずは医師の総数の話をしましょう。日本国内における医師の総数は約29万5000人(医療機関で働く医師は約28万人)、そのうち女性は約5万5000人となっています(2010年厚生労働省調べ)。経済協力開発機構(OECD)の統計によると、人口1000人あたりの医師数は2.2人で、OECD加盟国平均の3.1人を大きく下回っています(2012年OECDヘルスデータ)。

かつて日本では、女性医師が医療現場に残らないという問題を抱えていました。医師の労働環境は厳しく、勤務医になると時間外労働時間が過労死ラインの月80時間を超える場合も多くあります。さらに、結婚、出産、育児と医療を両立させる環境が整っていないため、出産を期に、現場復帰できず家庭に入ってしまうという現実がありました。

ところが、近年医師国家試験の合格者を見ても、女性が約1/3を占めるようになってきています。医学部入学者に占める女性の割合も、大学によっては40%に迫る勢いです。実際、国が「女性医師等労働支援事業」「女性医師支援センター事業」「病院内保育所事業」を実施し、女性医師離職防止や復職支援を行っていることもあって、女性医師の比率は約2割にまで増加しました。特に産婦人科や小児科については、20代の女性医師の割合は半数を上回っています。それでも諸外国と比較すると、まだまだ女性医師の割合は低いため、更なる改善や支援が望まれています。

次に問題となっているのは地域偏在による医師不足です。2004年から新人医師に2年間複数の科で研修をする研修期間が必須となりました。この制度では、研修先を自由に選択できるため、「雑用が多い」と言われる大学の医局は選ばれず、多くの症例が扱える都市部の病院や技術が高いと評価される民間病院に人気が集中しました。その結果、多くの大学病院が医師不足となり、病院側は医師不足を解消するために、各地の病院へ派遣していた医師を引き上げるしかなくなってしまったのです。この影響で、地方における医師不足が一気に加速してしまいました。

医師が比較的多い都市部と地方の医師を合わせた平均が、OECD加盟国の平均を大きく下回っていることから、地方の医師不足がどれほど深刻かが分かります。
地方の医師不足を解消するために、各大学では国の政策を受け、一般地域枠や推薦・AOの地域枠などを設置しました。単純に医学部の入学定員を増やして医師を育成しても、卒業後に都市部の病院ばかりに入ってしまえば、地方の医師不足を解消することはできません。そこで、地域医療従事者を増やす目的で、各大学は地域枠制度を導入しました。地域枠で入学した生徒は原則として、大学が指定する地域の病院で定められた期間医療活動に当たることになります。
さらに、地域枠奨学金という制度を導入し、卒業後の一定期間を当該地域で勤務することを条件に奨学金の返済免除を行う大学も出てきました。しかし、地域枠で入学して卒業後にその地域に留まったとしても、臨床経験の少ない新人医師がどれだけ地域医療を支えられるのか疑問視する声も上がっています。

特に問題が深刻な診療科には、早急な対応策が求められている

また、診療科によって医師不足の深刻さが違うという問題もあります。緊急搬送先が見つからず、命を落とした妊婦のニュースが過去に大きく取り上げられたように、産科・産婦人科や小児科の医師不足は少子化と密接に関係しているため、特に深刻です。

医師臨床研修制度で研修する科が複数になり、自分で科を決定する前にどの科が過酷なのかが実際に分かってしまうため、過酷な現場を希望する学生が減ってきているという現実もあります。
救急隊が医療機関に対して行う受け入れ照会回数が増加していることでも分かるように、緊急搬送先が増加しているにも関わらず、救急医療に従事する医師が極端に不足していることも大きな問題となっています。2006年の総務省データによれば、緊急搬送の収容までに11回以上の照会が必要だった搬送案件は年間で1000件以上にも上っています。

このように多くの問題を抱えているのが日本の医療です。しかし、私たちが生きていく中で、医療制度の充実は早急に行わなければいけない課題でもあります。医学部を目指している方は、自分が今後の医療を担っていく重要な一員なのだという意識を忘れないでください。