「患者を治療する」というイメージの強い医師ですが、研究分野や公務員として活躍する医師もたくさんいて、その他の選択肢も広がっています。既存のイメージに囚われなければ、さまざまな可能性が見出せ、しかもそれは医師にしか成しえないことである、というのもこの道の魅力なのかもしれません。

実は豊富な「医師の働き方」

医師というと、大学病院や民間の市中病院、診療所などで患者を診療する「臨床医師」のイメージが真っ先に思い浮かぶと思いますが、実は様々な働き方があります。臨床医師のほかの代表的な医師の働き方としては「研究医」があり、基礎医学の各分野の研究を行います。また、「公務員」として働いている医師も多く、国家公務員だと厚生労働省の「医系技官」、地方公務員だと「公衆衛生医師」として、医療・保健・介護・福祉の分野の専門家の立場からさまざまな業務に関わっています。公務員の医師としては、防衛省に所属する「防衛医官」(国家公務員)や、「監察医」(地方公務員)といった働き方もあります。

その他、製薬会社で新薬の開発に従事する医師、医療経済学を学んでコンサルタントになる医師、「国境なき医師団」などで海外向け医療ボランティアに参加する医師など、その道はさまざまです。また、臨床医師として大学院に進学したり、主に研究医ですが海外留学をする人もいます。

臨床医師とは?

臨床医師とは、病院などの各診療科で病気やケガをした人を診察したり、治療したりする医師のことで、「勤務医」「開業医」「産業医」などに分けることができます。勤務医は大学病院や公立などの大病院、市中病院、一般病院、診療所(クリニックや医院)などで働く臨床医のことです。厚生労働省の調査(平成26年「医師・歯科医師・薬剤師調査」)では、全国の届出医師数は平成26年末の時点で31万1,205人。その内、医療施設に従事する医師は約29万7千人で、ほとんどの医師が病院などで働いていることがわかります。また、介護老人保健施設に勤務する医師も約3千人います。

臨床医師の中でも、病院や診療所を経営する医師は「開業医」と区分されます。ちなみに病院と診療所の違いは、その病床数で、入院患者用のベッドを20床以上持つのを「病院」、それ以下が「診療所」と法律で定められています。「クリニック」や「医院」といった呼び方は、診療所の別名です。

病院以外でも、大きな企業で臨床医師の仕事をしている人もいます。危険な作業を行う職場や、大規模な職場には医師が常駐することが法律で義務づけられていて、そこで働く従業員の健康管理に携わる仕事をしています。

また、臨床医師には大学の医局に属して臨床分野の研究をする人もいて、研究と同時に患者の診察も行っています。臨床研究のために大学院に進学する臨床医もいます。

研究医とは?

患者を診療することだけが医師の仕事ではありません。実際に患者を診療することはせず、基礎医学の各分野の研究を行う医師を「研究医」といいます。研究医の使命とは、基礎的な研究を積み重ねることで、現在の医療では治療することのできない病気や、新たな感染症のメカニズムを解明し、根治や根絶に貢献することです。

研究医になるには、医学部を経て医師国家試験に合格後、大学院の博士課程へ進学することになりますが、進学する前に臨床研修を受ける人が多いそうです。これは、現在の制度では臨床研修を受けないと、各種公的医療保険に加入する患者を診察することのできる「保険医」の資格が得られないためです。保険医でないと事実上病院などで患者を診療することができません。また、研究医を目指していても、臨床研修中に臨床医師の道へ方向転換する人も多くいます。

研究医不足を危惧する声もあり、研究医を育成するための特別なカリキュラムを用意している大学も増えています。神戸大学医学部を例にあげると、「基礎医学コース」では、大学4年を終了後に一旦医学部を休学して大学院に進み、その後、5年生に復学するということをしています。これは、従来のやり方では早くても20代後半から研究に入ることになってしまう基礎医学の分野での研究者を、若いうちから育成しようという試みです。また、旧帝大の医学部は国から多額の研究予算が出ているため、基礎研究をしたいのであればそういった大学を選択するという方法もあります。

医師免許取得後に公務員として働く人も

医師免許を取得したあとに、国家公務員や地方公務員になる人もいます。

医師免許を持つ国家公務員のうち、主に医療・保健・福祉の分野を担当する厚生労働省に所属する人は「医系技官」と呼ばれます。医師免許取得後に採用試験に合格することが必要です。医系技官は、医療制度や公衆衛生の分野を中心に、さまざまな分野で医師としての専門知識を生かして国レベルでの整備に携わります。例えば、デング熱の感染拡大を防ぎ、原因究明の陣頭指揮を取る、といった仕事です。また、政策の企画や立案にも携わり、場合によっては新しい法律を作ることもあります。国会対策も医系技官の大きな仕事です。厚生労働省は女性の出産や子育てへの対応が進んでいることもあり、多くの女性が医系技官として働いています。医系技官以外の医師免許を持つ国家公務員には「防衛医官」があり、防衛医官は防衛省に所属して、自衛隊の病院や、部隊の医務室などで隊員やその家族に対して医療活動を行います。また、災害発生時にはその場所へ赴き、被災者に対する医療活動を行うこともあります。防衛医官のほとんどは防衛医科大学校の卒業生で占められますが、他の医学部の卒業生でもなることが可能です。

医師免許を持つ地方公務員は「公衆衛生医師」と呼ばれ、各都道府県庁内や保健福祉事務所で、住民の保健や医療、衛生、福祉に関する様々な業務に関わります。また、テレビドラマなどでよく目にする「監察医」も地方公務員です。監察医は、不自然な死を遂げた人の死因を調べて明らかにする、という仕事をします。

そのほかにも医師の進む道はさまざま

臨床医、研究医、公務員のほかにも、医師の働き方はさまざまな種類があります。製薬会社で新薬の開発に従事する医師もいれば、医療経済学を学んでコンサルタントになる医師もいます。医療経済学とは、医療の諸問題やマネージメントについて扱う学問で、国公立大学を中心に研究室を置く大学が増えている学問です。また、企業家として海外の最新治療などのノウハウを得て、医療系ベンチャーを立ち上げる医師もいます。

「国境なき医師団」が医師を目指すきっかけになったという人も多いのではないでしょうか? 医師には、こういった海外向け医療ボランティアとして活動する道もあります。医療チームの一員として、大きな災害や紛争が起きた世界各地に派遣され、医療活動を行います。「国境なき医師団 日本」の報告によると、2013年にはアフリカ大陸や中近東など24の国や地域を中心に、71名の医師を含むスタッフが派遣されたそうです。

また、海外で学ぶという道もあります。多くの人は基礎研究分野での留学ですが、臨床分野でも留学をする人はいます。ただ臨床分野での留学は、「日本の医師免許が使える国と使えない国がある」といった、乗り越えなければならないハードルが多く、難しいのが現状です。